今年に入ってから、おとぎ話は代々木のスタジオを利用している。街の喧騒を避け裏路地に入り、合気道場を過ぎると、ここにスタジオが?と、つい目を伺ってしまう程の、三階建ておんぼろコンクリートビルが佇んでいる。雰囲気たっぷりの地下に降りて行き、屈まなければ入れない程のオレンジ色の扉を開けると、受付に辿り着く。合気道場の前を通る時は、外まで響いて来る師範の厳しい声に背筋をピンと正すのだが、天井の低い入り口の前までくると、やはりまたいつものように猫背に戻っている。
先日、スタジオの店長である小林さんと、その弟分谷山の弾き語りライブを観に高円寺に行った。待ち合わせ場所には、いささか興奮気味の風間が一足早く到着していた。無理もない。この日はおとぎ話全員スケジュールを空けて心待ちにしていたのだから。僕たちは顔を合わすなり、当たり前のように、ガード下の焼き鳥屋に向かって歩き出した。リズム隊が為せる世界クラスのアイコンタクトである。その内に有馬と牛尾も合流し、ほろ酔い気分でライブハウスに向かった。
経験値たっぷり、こんがり小麦色の肌をして、マッチョなボディーにピチピチのTシャツを上手に着こなしている小林さんと、最近、コンビニで売っているブリーチにより金髪に変身を遂げた熊本出身の純情ボーイ谷山が、一体どんなライブをするのか非常に楽しみで、想像しただけでも口元が緩んでくる。
会場は弾き語りライブらしく椅子とテーブルが用意されており、ドリンク券を生ビールに交換し席に着くとまもなく、谷山の演奏が始まった。聞こえてくるのは、ろくに家に帰らず、アコースティックギターを抱えスタジオに寝泊まりしている、二十歳そこそこの男の詩であった。行き場のない怒りや不安がそこにあった。若い頃の自分を投影していたら、たちまち酔いが回ってきたので、参ったなあと思い、会場を見渡すと、一番真剣な顔で谷山の事を観ていたのは、他の誰でもなく風間だった。ライブが終わった後、風間に感想を尋ねると、「最後2曲のコード進行が同じだったね。」などととぼけた事を言っていたが。心打たれた事違いない。
そしていよいよ真打ち小林さんの登場だ。七年ぶりのライブとあって黄色の勝負Tシャツにクールなグラサンで登場、いつにも増してピチピチである。本人曰くだいぶ緊張していたらしいが、そんな事は微塵も感じさせない堂々たるステージングだった。曲が終わる毎に乾杯の音頭をとり、「もどかしくて」に代表されるオリジナル曲の他、皆が一緒に歌えるカヴァー曲も披露するなどして、ファンサービスに徹底していた。中でも弟分の谷山に向けて歌ったビートルズのヘルプ日本語バージョンは忘れられないものになった。あれからというもの、スタジオの道すがら気付くと鼻歌を歌っている。「泣きたくなる事もあるだろう、どんなに強がっていても」と。
ちょうど昨日、おとぎ話「青春GARAXY EP」がリリースされた。大ヒット間違いなしのこのシングルが生まれたのも、愉快なスタッフが働く、居心地が良いスタジオでのんびりやらせてもらっているおかげである。






