秋フェス(2)

9 月 30th, 2009 § 1

「どうしてもゾイドが欲しい」
今でもその名残はあるが、前越少年は当時から、人なつっこさに於いては同学年の追随を許さず、ズバ抜けたものがあった。そして多分にもれず、くじ屋のオヤジも救いの手を差し伸べてきたのである。オヤジは三本指を立ててこう言った。
「僕、お札三枚三千円持ってきたら交換してやるからな。家の人に相談してきな。」

「わかった。」だが、どうせ母さんに言っても、買ってもらえるはずはない。僕は覚悟を決めた。家の二階、寝室の奥にあるタンス、最上段、紺色をした正方形の缶箱、その中に多少のお金が入っている事は、子供ながらに気付いていた。僕は自宅に戻り、勝手口の方から、夕飯の支度をする母親の背後を、忍び足ですり抜けた。お金を盗りに行ったのである。息を殺して階段を登り、すり足で廊下を歩き、寝室に辿り着き、背伸びして缶箱に手をかけた。五感全ての神経が研ぎ澄まされる。心臓が膨張し、鼓動が聞こえて来る。気絶する程のドキドキの中、蓋を開き、中身を確認した。
「ある、丁度三枚だ…」僕はお札を握りしめ、今度は台所を通らずに、正面玄関のほうから、逃げるように自宅を後にし、再び秋祭りが開催されている護念寺へと向かった。

手に入れたお金をオヤジに渡すと、約束通りにゾイドと交換してくれた。だが、渡したお札を見るなり、オヤジの様子が急変した。「おい僕、こんな大金一体どうしたんや?オッチャンが欲しかったのは千円札三枚やぞ!」そう、僕が渡したのは確かにお札三枚なのだが、なんと、どれも万札だったのである。当時の僕にお札の違いなんてわからなかった。オヤジはこんな坊主が三万円も持ってきた事を不審に思い、問いつめて来た。そのただ事ではない表情から、僕も怖くなって、泣きながら全てを白状した。

「僕、一緒にいってやるから、家の人に謝りに行こう。」僕はオヤジに付き添われ、自宅に連行され、ついに御用となった。母さんからこっぴどく叱られ、兄弟からは千円札と万札のちがいもわからない阿呆、と辱めを受けた。家中の人から「穴蔵や」「穴蔵や」と脅され、案の定仕事から帰ってきた父さんに、穴蔵に閉じ込められた。僕は暗闇の恐怖の中で「ゾイドを買ってくれないのが悪いんだ。」と強烈な苛立を感じ(逆ギレ)、当時の身体能力を駆使し、穴蔵の中で壁を蹴る殴るなどして、体力の続く限り存分に暴れ回った。どれくらい時間が経過したのか、次第に暗闇の中でも目が慣れて来て、ようやく気持ちも落ち着いて来た。手持ち無沙汰になった僕は、穴蔵に片付けてあった、緑色の羽根をつけた扇風機の風速切り替えボタンを連打した。

穴蔵の外で待っていた父さんが、15分程で急に中が静まりかえったので、どこかに頭でも打って倒れたのでは、と心配になり、急いで扉を開けた所、前越少年は疲れ果てて、気持ち良さげにグッスリ眠っていたそうだ。まったく、親の心子知らずである。

秋フェス (一)

9 月 18th, 2009 § 0

九月も中旬になると、各地で秋祭りが催される。
近所の商店街にもピンクと白の提灯がきれいに並んでいる。
バンドのスタジオが終わって、電車を乗り継ぎ、ビール片手に家路に着く。家は商店街の外れにあるので、いつもならポツポツと街灯がともっているだけだが、この何日かは提灯の優しい明かりが僕を迎えてくれる。何というか、とても、ほっこりする。

小学生の頃、実家の近所の護念寺でも年に一度のお祭りが開催された。宿題をやらなければお祭りには行かせてもらえないので、この時期だけはきちんとドリルをやっていた覚えがある。その年も、お小遣い五百円を握りしめ、同級生と待ち合わせをして護念寺へ、目的はもちろんくじ引きだ。そこで僕は目を見張った。ぞ、ゾイドがある。先日友人の日高に自慢気に見せびらかされた、組み立て式の恐竜のおもちゃだ。欲しい。喉から手が出る程欲しい。僕は喉から出て来た手で、くじ屋のオヤジに百円を渡して勝負に出た。だが、そう簡単にアタリが出るはずもなく、癇癪玉やたこせんがたまる一方だった。もう後にも引けなくなり、結局、全額くじに投資し、手元に残った財産は低学年の奴らが喜ぶ、子供騙しのアイテムばかり。ふざけるな、僕は中学年だぞ。涙目になりながらも、まだ諦めきれずに、くじ屋の軒先でふて腐れていると、くじ屋のオヤジが声をかけて来た。「どうした?、僕。」

僕は答えた。「どうしてもゾイドが欲しい」と。

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