まだ保育園に通っていた頃に、一度プロポーズをした事がある。相手の名前はあっちゃん。『先生、俺この人と結婚するんや。』と言ってあっちゃんの手を握った記憶がある。我ながら斬新なプロポーズではないだろうか。その後、急にお互い意識しするようになり、あまり話さなくなくなったまま小学校に進み、僕にはまた別に好きな人が出来て、二人の関係は自然消滅となってしまった。あっちゃんは年を重ねるに連れて、元来持ち合わせていた美貌、愛想の良さを存分に発揮、さらに実家が神社という魅力的なオプションも機能して、小学校を代表するアイドルにまで成長をした。
中学生になり、あっちゃんが選択した部活はなんと剣道部。運動会のリレーの選手にも名を列ねる程の運動神経の持ち主で、男子相手でも全く引けを取らなかったそうだ。あっちゃんは「出小手」といって、相手が面打ちをしようと振りかぶったその隙に、小手を放つ技が得意だった。剣道部なのに品がある。出小手のあつこの名は、いよいよ市内中の中学校へと広がり、高嶺の花のような存在になってしまった。
二十歳を過ぎ、帰省先で初詣に。108参り(108カ所の神社を巡る遊び)の途中、剣道部の友人であり、あっちゃんファンクラブ会員でもある誠治が「マル、あつこに合いに行こうや!」といって車のハンドルを握った。なんとあっちゃんは市内で一番大きな神社で巫女をやっていたのだ。人混みをかきわけ神殿へ。そこにあっちゃんは居た。やっぱり綺麗だった。
「あっちゃん、俺が誰か分かるか?」
「分かる。マルや。」
「あっちゃん、保育所で、俺らがした約束覚えとる?」
「覚えとるよ。私マルと結婚するって思っとったからね。」
雪が舞い散る境内で、俺は誠治と思わずガッツポーズをした。
あっちゃんはもう結婚したのだろうか。もし結婚してたら、旦那さんに忠告しておく。浮気はするなよ。出小手のあつこが目を醒すぞ。


